SMITH BOOK PROJECT
かつての「職人」といえば、部屋にこもって黙々と手作業をこなす人たちであり、後進がその技を取得するには師匠の背中をみて学ぶほかない、というイメージがあった。また、その技術や製品が一般に浸透する段階で本質が薄まることに対して、嫌悪感を口にする者もすくなくない。しかし今は、インディペンデントでありながらオープンマインドな「新しい職人」が方々で注目を浴びている。つまり、ものづくりには強いこだわりを見せつつ、その世界への扉はつねに開かれていて、自身が手がけたものごとが世の中に広まっていくことも厭わない人たち。本サイトでは、そんな新しい職人たちを「SMITH」と称し、毎週1人・合計25人の方々に取材を実施。さらに、その人となりからバーテンダーが感じた「SMITHたる所以」をカクテルで表現し、レシピと共に紹介する。
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SMITH: 山脇 耀平・島田 舜介
COCKTAIL: ayaori/Stitch by Stitch

山脇 耀平・島田 舜介

山脇 耀平・島田 舜介
Yohei Yamawaki・Shunsuke Shimada
株式会社ITONAMI/1992年生まれの山脇耀平、1994年生まれの島田舜介。兵庫県加古川市出身。弟・舜介が20歳のタイミングで母方の姓を継いだことで、実兄弟ながらも異なる名字を持つ。大学在学中の2014年、兄弟で「EVERY DENIM」をメディアとして立ち上げ、翌2015年にはオリジナルデニム製品を販売する活動をスタート。2018年4月からは、キャンピングカーで移動販売をしながら全国47都道府県を巡り、衣食住のつくり手に出会う旅を行う。2019年9月、初の拠点となる泊まれるデニム屋「DENIM HOSTEL float」を岡山県倉敷市児島にオープン。2020年10月、慣れ親しんだ屋号「EVERY DENIM(エブリデニム)」から「ITONAMI(イトナミ)」にブランド名を変更。
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SMITH: 山脇 耀平・島田 舜介
COCKTAIL: ayaori/Stitch by Stitch
Recipe for Life- 人生のレシピ
  1. 予定調和でない偶然を生み出すため、能動的に動く
  2. 実力を俯瞰して受け入れ、等身大の自分で勝負する
  3. 純度の高い想いを具現化させるための環境を、自らつくる

“デニム兄弟”の愛称でも知られる、兄・山脇耀平さんと弟・島田舜介さん。彼らが学生時代に立ち上げたデニムブランド「EVERY DENIM(エブリ・デニム)」は、活動開始から丸5年経った2020年10月26日デニムの日、「ITONAMI(イトナミ)」へと屋号を変え、ビジョンを新たにスタートを切った。2019年9月にオープンした彼らの施設「DENIM HOSTEL float」を拠点に岡山で活動する島田さんと、東京と岡山を行ったり来たりしながら活動する山脇さん。価値観を深いところで共有し合い、信頼を寄せ合っているのはもちろんのこと、漫才コンビかのように息ぴったりの掛け合いは、見ているこちらまで微笑ましい気持ちにさせられる。全てを共有し、共に道を切り拓いて挑戦を続ける二人に話を聞いた。

 

等身大であり続けることで、信頼を積み重ねていく

「EVERY DENIM」は、当時岡山大学へ通っていた弟・島田さんがデニム工場を見学したことをきっかけに始まった。「僕らが履いているジーンズが一本一本岡山で手作業でつくられていることや、国内外の有名なブランドと仕事をしていること、そして誇るべき技術があることを知りました。何より、目の前で作業している職人さんの姿が本当にかっこよかった」。目の当たりにした光景に衝撃と感動を覚えたという。ただ素直に、その感動をみんなにも共有したい、瀬戸内でつくられるデニムとものづくりの現場をみんなに知ってほしいと思った島田さんは、実の兄である山脇さんに声をかけ、「EVERY DENIM MAGAZINE」というウェブメディアの形で活動をスタートさせる。2015年、クラウドファンディングで資金を募り、プロジェクトという形でオリジナルのデニムづくりに挑戦してからは、工場と会話しながら職人のこだわりが詰まった数々の商品を生み出してきた。

そんな二人の役割はというと、工場とのやりとりや生産管理、経理など細かな「ものをつくるまで」に加え、昨年から「DENIM HOSTEL float」の運営を担当しているのが弟の島田さん。ファンとのコミュニケーションや様々な場所へ出向いての販売会など「ものを届けるまで」を担い、岡山と東京の二拠点生活を送っているのが兄である山脇さんという構図。「岡山県の児島に初の固定店舗をオープンさせたわけですが、そこで待っているだけでは新しい出会いは生まれないと思っていて。偶然を生み出すために、能動的に仕掛けていくことはこれからも続けたいと思っています」。島田さんが岡山で店舗と工場とを行き来しているの対し、山脇さんは様々なエリアへ自ら商品を持って出向き、アプローチしている。いわゆるD2C(Direct to Consumer)と呼ばれる、ブランド自らがものづくりから商品を届けるところまでを担うスタイルで活動を続け、直接作り手の想いや商品の魅力を伝えることで、多くのファンを集めてきた。過去5度となるクラウドファンディングを通して、毎度直接的につながったファンを数百人と集めていることも印象深い。

今や全国に広がるファンと共に歩む中で日々意識しているのは、等身大であり続けることだと言う。「飾って大きく見せたり、卑下して小さく見せたりするのは簡単なことだと思っていて。ありのままを見せるって、自分で自分の実力を認識して受け入れていないといけないし、さらにはそれを外に見せていくって勇気のいることだと思うんです」。それでも覚悟を持って等身大で勝負し続けているからこそ、今までの歩みには嘘偽りがないし、ちぐはぐになることもない。一本の筋が通った活動や発言が周りからの信頼につながり、さらに応援の輪が広がっていく。「例えば昨年つくった『DENIM HOSTEL float』も、もっと大きく豪勢なものにしようと思ったら出来たんです。でもそこにも自分たちを投影させ、背伸びしたものや違和感のあるものは作りたくなかった。お客様も僕らからそんな違和感を感じるものは受け取りたくないだろうと思ったんです」。取り繕わず、どこまでも等身大で、挑戦する過程すら公開していく。「何より、兄弟である僕らの掛け合いややりとり自体が自然体なので、偽りや繕う部分が一切無いというのも、安心感や信頼感を与えているひとつの理由なんじゃないかと思っています」。実兄弟ながら、島田さんが母方の養子になった関係で名字の違う二人は、お互いのことを「山脇」「島田」と苗字の呼び捨てで呼び合う。その様子はさながら友達同士のようだ。そんな二人のつくり出す空気感はいつも楽しげで、自分もその輪に加わってみたいという気にさせてくれる。「そんな僕たちの姿を見て、自分もやってみようとチャレンジする人が増えたら、もっと嬉しいですよね」。そう語る山脇さんの目はどこまでも真っ直ぐだ。

 

純度の高い想いを持って、やりたいことをやり抜く

そんな二人が口を揃えていう自分たちの強いところは、「純度の高い『やりたい』に、常に挑戦し続けていること」だという。建前ではなく、理由を並べるでもなく、純粋に自分たちがやりたいと思えることに向かえているかどうか。

2年前にキャンピングカーで47都道府県を回った時もそうだった。「販売という点からしたら非効率だと思うんですが、僕らが岡山でデニムの職人に出会い感動したように、全国各地に根ざしてものづくりをしている職人に出会いたい、地域のことを教えてもらいたいと強く思って実現させました」と島田さんは言う。15ヶ月かけて、週末は販売会、平日は職人を巡るという旅を続けた。そんなキャンピングカーでの旅を終え、店舗を持たないスタイルを売りにしてきた彼らが自分たちの拠点を作ろうとした時もそうだった。「宿だけでなくアパレルとしての直営店機能も担っているので、戦略的に考えるなら、東京を始めとする都市部などもう少し人口密度の高い街に拠点を持つべきという話も出たんです」。でも、彼らはやりたいことの純度を考え、デニム発祥の地である岡山県の児島を選んだ。「たくさんの人にデニム生産地であるこの児島の景色を見て欲しいし、実際にものづくりをしている人たちと触れ合って欲しいという思いがありました」。

例えそれが合理的じゃなくても、遠回りでも、常に自分たちで決めた「純度の高いやりたいこと」が実現できる環境をつくり、同時に守ることを意識していると言う「例えば、卸売を始めるかどうか悩んだこともありました。全国に卸すことで売り上げも接点も増えるのですが、お客様と僕らの繋がりは弱くなる。販路を自分たちの手から放して拡大する方向は、今の自分たちにはまだ早いなと思いました」。そうやって、少しでも違和感があることは、やらない。心の底からやりたいと思えることだけを、やっていく。「それはお客さんにも伝わると思うし、僕らの熱量にも比例すると思うんです」と山脇さん。「自分らで考えた末の結果であれば、なんであれ後悔はしません。上手くいかなかったときは、考えていたこととどこがずれていたのか、次はどうすれば良いのかを、徹底的に話し合うまでです」。

それ故に手放してきたこともあることを、彼らは自覚している。「いままでは、だいぶゆっくりやってきたなという実感があります。ブランドの圧倒的成長とか、スピードとか、拡大とか。そういうものと引き換えに、僕ら自身の成長や、顔の見える関係性を紡ぐことに時間をかけてきました」と山脇さん。「裏を返すとそれは、身軽だからこそ出来たことなのかもしれません。これからは、岡山の街や仲間たちのために、背負うものを大きくしていきたいと感じています」と島田さん。自分たちの現状を冷静に見つめながら、真っ直ぐな言葉でそう語る二人。決意新たに、自分たちのやりたいことをやり抜く強さも持ち合わせながら、これからはスピードも上げていきたいと話す。

じっくりと、でも着実に、新しいことに挑戦し続けてきた山脇さんと島田さんは、次第に「EVERY DENIM」を超えたような感覚になっていった。活動を始めて5年が経ったいま、もっと長い目で見て自分たちの活動の軸となり、自分たちをより高みに引き上げ得るようなものにリブランディングすることに決めた。そうして誕生した「ITONAMI」は、暮らしの営みやデニムの糸、瀬戸内海の波をその名前に込めているという。「自分たちの想いや価値観が伝播して広がり、影響を与え合う様子を波のイメージに重ね合わせています」。いままでの屋号を手放すことに寂しさは無いのかと聞くと、「全くありません。前を向いて、『EVERY DENIM』に『いってきます』という気持ち」だと笑う。

 

商品開発、試着販売会やワークショップ、さらには宿泊・滞在という提案を通して、デニムづくりに関わる職人たちの想いやこだわりを届け続けている山脇さんと島田さん。こだわりあるものづくりと、それを外に広く届けようとする独自の眼差しをもって閉じていたデニム業界に風穴をあけてきたが、さらには工場の立ち並ぶ地域に拠点を持つことで、内と外とをよりフラットにつないでいきたいと奮起している。そんな彼らの姿に、己の技術を追求しひとつのことを深く掘り下げていくような従来の職人像とは異なる、“現代の職人”像を垣間見た。

山脇さんと島田さんのように、自分の実力やポジションを俯瞰して認め、受け入れること。更にはそれを、覚悟を持って外に見せていくことの難しさ。ありのままでいたいと願う心のうちとは裏腹に、いつからか少し背伸びするようになり、人によく見られたいと思うようになり、自分を大きく見せてはそれに追いつこうと必死になってきた人も多いのではないだろうか。そうやって自らに高いハードルを課すことも時には大事だが、そればかりでは長い目で見た時にきっと疲弊してしまうだろう。彼らのように等身大で偽りない自分であり続けることで、本当に必要なものだけが見えてくるようになるのかもしれない。

カクテルにはSIPSMITH
「London Dry Gin」と「V.J.O.P.」を使い、
一人の“SMITH”に対して
2種類のレシピを開発しています。

「London Dry Gin」と「V.J.O.P.」について ↗︎

ayaori
アヤオリ
岡山の街や仲間を大切に思う山脇さんと島田さんのイメージから、乾杯にふさわしいシャンパーニュを使ったカクテルとして、フレンチ75のツイストカクテルを創作しました。SIPSMITHの象徴であるスワンネックの蒸留器の銅と、ジーンズの本体に別布を装着する際に補強の役目をする銅の鋲であるリベットの2つをリンクさせて、銅がもつ暖かみのある色のカクテルに仕上げました。ジュニパーベリーの爽やかでしっかりとした輪郭があるSIPSMITHにシャンパーニュシロップを加えることで、SIPSMITHの華やかさやフルーティーな甘みをさらに引き立たせ、いちじくビネガーの深みが全体の味を引き締めてくれます。
Cocktail Recipe

1.SIPSMITH London Dry Gin 30ml
2.シャンパーニュシロップ 30ml
3.フレッシュレモンウォーター 20ml
ガーニッシュ:若桃の甘露煮

Bartender Interview
江下 七海
Bar Seven seas

Q1:今回のカクテルを創作する上でどのようなことを考えましたか?
「ありのままを見せるって、自分で自分の実力を認識して受け入れていないといけないし、さらにはそれを外に見せていくって勇気のいることだと思うんです」。この言葉がとても印象的でした。私は、勇気に必要なのはそれを裏付ける努力量だけだとばかり考えて、自信があるように大きく見せることを強く意識していました。しかし、今回の記事を読んで、成長の過程においても自分自身、そして自分の守りたい、挑戦したいものに対して、偽りのない等身大でも挑めるようになりたいと思いました。

Q2:それをどのように自分らしくカクテルに表現しましたか?
「ありのままの自分」ということで、自分の想いをカクテルの要素に加えたいと思いました。私はお祝いごとのドリンクには大好きなシャンパーニュを選びます。そのため、今回はリブランディングされたお祝いに、シャンパーニュを使うことを決めました。スミスたちの技術の調和を目指したカクテルです。

Q3:このプロジェクトはあなた自身の生き方にどのような影響をもたらしましたか?
純度の高い「やりたい」に向かい活動されているお二人の言葉から、私にとって「やりたい」こととは何か、と考え直しました。様々に思い浮かびましたが、それと同時に自分の実力不足も感じました。背伸びをして取り繕うことなく「やりたい」に向かえるよう、努力を続けていこうと再確認できるとても良い機会でした。

Stitch by Stitch
ステッチ・バイ・ステッチ
シンプルさの中の美しさというSIPSMITHの哲学と、スミスの人生のレシピを拝見し、思うことが色々とありました。前職がアパレルなので理解できる部分も多く、すんなりと私の中に入ってきました。お二人の等身大という姿勢からくる真っ直ぐな強さ、人としての優しさからくる笑顔の素敵さ、そしてどうやって世に広めようかというビジネスの面での人との付き合い方・関係性の築き方に強いこだわりを感じると同時に、1920年代の伝統あるクラシックカクテルが持つ美しさを、今に落とし込みたいと考えました。前職で得たファッション的な目線から、リバイバル、そしてクラシック回帰(Classic regression)というイメージでカクテルを表現しました。
Cocktail Recipe

1.SIPSMITH V.J.O.P. 40ml
2.セロリジュース 15ml
3.シャルトリューズ ジョーヌ 15ml
ガーニッシュ:レモンピール

Bartender Interview
安藤 良行
株式会社HUGE/Restaurant Dazzle

Q1:今回のカクテルを創作する上でどのようなことを考えましたか?
私の前職がアパレル業界で、実際にUKでデザイナーやパタンナー、カッターなどの仕事に携わっていたので、スミスに共感する部分が多かったです。デニム生地を構成する一本一本の糸のオンスでデニムの生地の強さは構成され、また立体的な人体を包むために運動量や機能性を考えて縫われ、「Stitch(ステッチ)」がデニムを「つなげている」。実力を俯瞰して受け入れ、等身大の自分で勝負するというお二人も何かに「つながれている」パートナーであり、そんなお二人の人との「つながり」にも、純粋なこだわりと強さを感じました。

Q2:それをどのように自分らしくカクテルに表現しましたか?
デニムの有名な生産地の岡山・児島で伝統的なデニムを再構築しているお二人。私は伝統的なクラシックカクテルをシンプルに、世界中で作れるようなカクテルで再構築して表現してみました。シンプルにジンとシャルトリューズを使うクラシックカクテルのALASKA。その二つの材料をつなぐ「Stitch(ステッチ)」の役目にセロリジュースを加える。ロックスタイルで加水しながらボタニカル香るジンと、薬草酒の苦味を丸くし、少しずつ変わっていく口当たりを楽しんでもらうカクテルで表現しました。

Q3:このプロジェクトはあなた自身の生き方にどのような影響をもたらしましたか?
私は、30歳からBarのキャリアをスタートしました。自分を飾らず等身大で勝負し、目の前のお客様とつながり、自分も誰かにつなげてもらい、個人としても成長して幸せなバーテンダー人生を送りたいと思いました。どんな色のデニム生地にでも合う「Stitch(ステッチ)」のようなカクテルを、作成し続けていけたらと思います!