SMITH BOOK PROJECT
かつての「職人」といえば、部屋にこもって黙々と手作業をこなす人たちであり、後進がその技を取得するには師匠の背中をみて学ぶほかない、というイメージがあった。また、その技術や製品が一般に浸透する段階で本質が薄まることに対して、嫌悪感を口にする者もすくなくない。しかし今は、インディペンデントでありながらオープンマインドな「新しい職人」が方々で注目を浴びている。つまり、ものづくりには強いこだわりを見せつつ、その世界への扉はつねに開かれていて、自身が手がけたものごとが世の中に広まっていくことも厭わない人たち。本サイトでは、そんな新しい職人たちを「SMITH」と称し、毎週1人・合計25人の方々に取材を実施。さらに、その人となりからバーテンダーが感じた「SMITHたる所以」をカクテルで表現し、レシピと共に紹介する。
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SMITH: 本間 貴裕
COCKTAIL: Brunch Martini/Mizuwari

本間 貴裕

本間 貴裕
Takahiro Honma
SANU ブランドディレクター/Backpackers' Japan創業者。福島県会津若松市出身。2010年「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」を理念に掲げ、ゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanを創業。同年、古民家を改装したゲストハウス「toco.」(東京・入谷)をオープン。その後、「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(東京・蔵前)、2015年「Len」(京都・河原町)、「CITAN」 (東京・日本橋)、「K5」(東京・日本橋)をプロデュース、運営する。2020年、自然と共にある生活 ”Live with Nature.“ を提案するライフスタイルブランド「SANU」を設立。
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SMITH: 本間 貴裕
COCKTAIL: Brunch Martini/Mizuwari
Recipe for Life- 人生のレシピ
  1. 腹落ちするかどうかという独自の判断基準で勝負する
  2. 自然に触れることで得られる感性に立ち返る
  3. ネガティブを取り除くのではなく、ポジティブなアプローチで意識を変える

「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」や「CITAN」に代表されるゲストハウスを手掛けるBackpackers’ Japanの創業者であり、東京の兜町にオープンして大きな話題となったマイクロ・コンプレックス「K5」の仕掛け人でもある、本間貴裕さん。洗練されたリノベーション空間やカフェバーが併設されたラウンジなど、それまでのゲストハウスのイメージを覆す宿泊施設を次々と生み出してきた本間さんだが、2020年7月、新たな挑戦に踏み切り、ライフスタイルブランド「SANU」を立ち上げた。新しい空間を世に生み出し、そこでの過ごし方を提案し続けている本間さんに、「K5」を案内いただきながら話を聞いた。

つくってきたのは、人と人のつながり

本間さんは、それが上手くいきそうかどうかに関わらず、自分の感覚を信じて勝負し続けることを12年間貫いてきた。「自分が気持ちいいなと思う感覚を大切にして丁寧につくり込んだ場に、人々が集まっている景色が見たかったんです」。国籍、職業、思想、年齢、それらを越えてひとところに集える空間を、誰かの模倣ではなく自分の感覚と対話しながらつくってきた。それゆえ本間さんには、誰かを師匠と仰いだり何かをベンチマークしたりするということがない。「誰かの価値観や社会にある倫理を超えて、自分の見たい景色を追い求める。そんな純粋な欲求の方が強いと思っています」。もちろん常にその感覚に自信を持てる訳ではないが、すぐに正解を求めるのではなくて、自分の感覚で勝負するプロセス自体に楽しさを感じてきたと言う。そして生み出された数多くの空間は、多様な人がつながる場となり、共感を集めてきた。

本間さんがつくる場所、その原体験にあるのは20歳の時に見た風景。福島県会津若松の地元から出ず世界に触れずに育った本間さんは、初めてバックパッカーとして訪れたオーストラリアのホステルで、ラウンジに多様な人種が集いフラットにつながっていく体験に衝撃を受けたと言う。「こういう旅の体験を、もっと多くの人にしてほしいなと思いました。当時の日本にはホステルやゲストハウスがまだ少なかったので、それなら自分たちでつくろうって」。帰国後、同じような風景を日本でもつくりたいと立ち上げたのが、Backpackers’ Japanであり、台東区にある古民家を改装したゲストハウス「toco.」である。「好きな人とチームを組んでつくったものが発信力を持って、その先に誰かが喜んでいる顔が見える。『toco.』から始まった宿づくりの仕事は、ある種の中毒のような快感がありましたね」。自分の感覚を信じて世の中に出したものが受け入れられ、改めてかっこいいなと実感できた瞬間、そしてその場に人が入ってきて出会い繋がっていく瞬間は、何時も大きな喜びを与えてくれていた。

そんな本間さんは、宿づくりを仕事としながらも、建築やデザインについては今でも詳しくはないと話す。「その代わりに、センスのある大工さんやデザイナー、スタッフたちと会話を続けていく粘り強さと、何が美しいかを最終的に判断する感覚のようなものが自分にはあると思っています」。これまでのプロジェクトでは、建物の外観や内観を立体的な絵に落とし込んだパースを描いたことはほぼ無く、その時々の相手とその場に立ち、熱量のある対話を通して美しさを判断してきた。その基準になるものはすべて、自身の感覚であり、腹落ちするかどうか。理論よりも何よりも、すっと腹落ちしてくることが、唯一無二の判断基準だと言う。もし腹落ちしなかった時はすぐに意思決定せず一旦時間を置き、その理由を探る。「腹落ちするかしないかの感覚を得るスピードと精度を上げることが、大事だと思いますね」。それは単なる勘のようなものではなく言語情報を超えた、独自の感覚的な状況認識力と言い換えることができる。

その感覚を大切にしつつ、「あらゆる境界を越えて、人々が集える場所を。」という理念を常に掲げながら、次々と切り口を変えて宿を生み出してきた。そこに共通するものとして、意識的に「自然」を取り入れている。例えば「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」では北海道のニセコで選定した木々を、「Len」では自然に囲まれた京都の風景を、「K5」ではコンクリートの建物が数年後には緑に覆われ少しずつ自然に還っていくような植物の仕掛けを施している。「お洒落とかかっこいいとかよりも、原始的で自然に近いものの方が人は安心するはず。そして安心した方が人と人はつながると思うんです」。デザインだけではなく、より直接的に人の生きる場所や時間を自然に近づけていきたいという想いは、後のテーマとして昇華していく。

つくっていくのは、人と自然の調和

Backpackers’ Japanの代表としてファーストステージを駆け抜ける中で、これだけではまだ足りないという次への想いが本間さんに湧いてくる。その背景には、社会からの注目度と比例するように人に疲れてしまう自分を自覚する中で、常に支えてくれていた自然という存在があった。「『Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE』をつくったくらいの時にサーフィンを始めたんですが、都会から離れて海に入る度に救われる感じがあったんです。社会や人の関係性という軸とは全く関係ないところで自然は存在しているんだなと気付かされました」。そして思い返されたのが、自身のルーツである会津若松で見てきた、心に残り続けている景色。朝靄の中でボートを漕ぎだす時の感覚や、しんしんと雪が降る静かなスキー場で感じた空気。「人と人をつなげることをしてきて、次は人と自然をつなげたいと考えるようになりました」。

それは、人と人がつながる場をつくり続けた本間さんが一周まわって辿り着いたシンプルな境地。「最後に要素を削ぎ落としていくその前には、必ず何かを足して試行錯誤する段階があるはず。そこを経験しないと本質を捉えることはできないと思います」。例えば、iPhoneはシンプルに見えて内部は非常に複雑だったり、長く愛される飾り気ない家具ほど綿密に設計されていたりする。本間さんが考える本質とは、ただシンプルであるということではなくて、物事を突き詰めて、もがき続けたその先にあるもの。そこに至るまでに想像もできないほどの時間を使って導き出されたものである。本間さんが様々な経験を経て辿り着いたのは、原点である自然への回帰だった。「環境問題を声高に発信するつもりはありません。世界中の綺麗な自然の中で暮らせたら最高だよねという純粋な欲求から、次の挑戦が始まりました」。



その想いの表現が、”Live with Nature.”を掲げ、都市に拠点を置きながらも繰り返し自然に通う「2nd Home サブスクリプション」を提案していくサービス、「SANU」である。これは人の生き方に対する提案であるとともに、自然を美しくしていくための提案でもあると言う。「森に『SANU』が入ることで、少しずつ風や水が流れるようになって木々が根を張り、光が入って虫も増える。『SANU』が出来たことでこの森って美しくなったよねというのが、10年後に見たい景色なんです」。シームレスでボーダーが薄くなることで人が集まる未来が想像できた今、一方で答えの見えない自然環境に対する活動に取り組むべきではないかという、本間さんの新しい挑戦。スケール感を持って世界へ展開していくことで、社会に大きな影響を与えていきたいと話す。

「『SANU』に来る動機は何でも構いません。でもその出口には自然の美しさを感じて意識が変わり、その後の生き方にまでつなげていって欲しいと思っています」。そこにあるのは、自然を好きになったら自然を守ろうと思うはずという、人に対する希望。CO2を出してはいけないから飛行機に乗らないようにしようという論調には無理があるから、ネガティブな何かを取り除くという意識ではなく、ポジティブなアプローチで世界を変えていく。「原生林や美しい海に入った時の感動は、圧倒的なんです。都市や社会の中で得る刺激よりも、ずっと直接的に感じられるもの。これは言葉を通してメディアで発信するだけでは伝えられないので、実際に自然の中にセカンドホームを用意することにしました」。世の中にメディアとしての性質も兼ねた場をつくることで、体験を通して世界を変える提案をし続ける。「でも結局は、自分がサーフィンしながら暮らしたいだとか、正々堂々と自分がやりたいことをやるために、社会的意義を紐付けて大義名分を与えているに過ぎないのかもしれません」。本間さんは現在、Backpackers’ Japanの代表を引き継ぎ、人生をかけたセカンドステージでの挑戦に夢中になっている。

 

大局の意思決定から細部の調整に至るまで、腹落ちするかどうかという自身の感覚で勝負し続けてきた本間さん。自然の持つ力に魅せられ、感動を享受してきた本間さんの提案だからこそ、結果として多くの人の共感を集めてきたのではないだろうか。自分は何を良しと思うのか、何をしたいのかという内なる声に耳を傾け、その感覚を研ぎ澄ませていくことで、人生における判断軸もより明確なものとなっていくのかもしれない。

カクテルにはSIPSMITH
「London Dry Gin」と「V.J.O.P.」を使い、
一人の“SMITH”に対して
2種類のレシピを開発しています。

「London Dry Gin」と「V.J.O.P.」について ↗︎

Brunch Martini 
ブランチ・マティーニ
ナイアガラワインの自家製シロップを使い、ブドウの香りと爽やかで口当たりの柔らかいカクテルに仕上げています。LONDON DRY GINの華やかなアロマにブドウの甘味、シャンパンビネガーの酸味でバランスを取りました。多種多様な人が集う空間をイメージし、SIPSMITHの味わいと自然を感じられるカクテルを表現しています。ガーニッシュも、カクテルから一番近い素材を使う事で、自然を感じられるようにしました。
Cocktail Recipe

1.SIPSMITH London Dry Gin 50ml
2.ナイアガラワインシロップ 10ml
3.シャンパンビネガー 1ティースプーン
ガーニッシュ: フローズンマスカット

Bartender Interview
矢崎 慎
Bar Gyu+/Early Bird (Little Door Inc.)

Q1:今回のカクテルを創作する上でどのようなことを考えましたか?
本間さんのインタビューから想像を膨らませ、空間づくりへの考え方、自然に対する思いに焦点を当て、様々な人が集まる空間でリラックスして飲めるカクテルを作りたいと思いました。「お洒落とかかっこいいとかよりも、原始的で自然に近いものの方が人は安心するはず」という言葉から、自然に近い素材をカクテルに使う事にしました。

Q2:それをどのように自分らしくカクテルに表現しましたか?
インタビューの中で自身のルーツにも触れられていたので、自分の地元北海道で栽培されている素材を考え、ワインを選びました。SIPSMITHとワイン、そこに合う材料を「感覚的」にイメージした時に、華やかなシャンパンビネガーが合うと思いレシピを決めました。”SMITH”のインタビューを1杯のカクテルが出来上がる過程に重ね、表現することが出来たと思います。

Q3:このプロジェクトはあなた自身の生き方にどのような影響をもたらしましたか?
3種類と限られた材料の中で、味の方向性と腹落ちするレシピ構成を考え、思考や言葉を材料に落とし込むという工程で、迷いながらも楽しみながら挑戦出来ました。このプロジェクトを通して”SMITH”の価値観に触れ、思いを巡らせ、今後の自分自身の人生のレシピに辿りつけるよう、前進して行こうと思いました。

Mizuwari
ミズワリ
いわゆるマティーニの水割りとなります。シンプルで美味しく、ジンの主原料であるジュニパーベリーの風味を最大限に引き出したカクテルで、BenFiddichでも人気の1杯です。
Cocktail Recipe

1.SIPSMITH V.J.O.P. 50ml
2.ドライベルモット 10ml
3.軟水 60ml
ガーニッシュ: グリーンオリーブ

Bartender Interview
鹿山 博康
BenFiddich

Q1:今回のカクテルを創作する上でどのようなことを考えましたか?
改めてジンそのものの良さに立ち返り、要素を和食のように削ぎ落とし、味わいを引き出したカクテルを考えました。

Q2:それをどのように自分らしくカクテルに表現しましたか?
僕はジュニパーベリーの木であるセイヨウネズを畑で育てています。5年後にはジュニパーベリーが茂る森ができることでしょう。このカクテルは、本間さんの言う自然と、僕の畑の未来の姿とを重ね合わせています。「自分の感覚を信じて勝負し続ける」ことを自分も実践していきたいと思っています。

Q3:このプロジェクトはあなた自身の生き方にどのような影響をもたらしましたか?
より、ジュニパーベリーの風味をシンプルに。カクテルとして、バーテンダーとして、もう一度ジンというものにシンプルに立ち向かうことができたと思います。

Words by Kengo Shoji / Photo by Shigeta Kobayashi