DISCOVER THE CLASSIC #3 – 南木浩史とネグローニ
イタリアの素材にジンの香りを纏わせたフィレンツェで生まれのクラシックカクテル、ネグローニ。
コクのある甘苦さとハーブ様の複雑な香りを有するこのカクテルは、世界の人気カクテルランキングで常に上位を記録するなど、世界中のカクテルラバーを虜にしています。
そんなネグローニについて、ホテルのバーマネージャーを務める傍ら、幾度となく海外のバーにゲストとして呼ばれるなど、世界をまたにかけるパークホテル東京 Bar The Society(東京・汐留)の南木浩史(なんもくこうじ)さんに渾身の1杯をお作りいただき、ネグローニを軸とした自身のエピソードを語っていただきました。
– Recipe –
①SIPSMITH ロンドンドライジン(冷凍) 35ml
②カンパリ(冷凍) 20ml
③カルパノ アンティカ フォーミュラ 12ml
④プント・イ・メス 8ml
⑤オレンジビターズ 1dash
⑥フレイムオレンジゼスト小さな器を2つ用意し、片方に①〜⑤の材料を加え、もう一方の器と数回移し替えながら材料を混ぜ一体感を出す。それを氷の入れたグラスに注いで数回ステアし、オレンジゼストをバーナーで焦がしながら香りを飛ばす。
南木さんがお作りになられたのは、ずばりどのようなネグローニですか?
甘さと苦さ、そしてジンの骨格、これらの3拍子がしっかり揃ったものが自分にとっての理想であり、クラシックなネグローニだと思っています。今回はそうした仕上がりを目指し、クラシックな味わいを求める方の気持ちにしっかり答えられるような味わいを意識しました。
普段からネグローニを作るときは、ジンもカンパリも冷凍のものを使っていまして、今回も同じようにしています。カンパリは冷凍にすることで甘さが立つ一方で、SIPSMITHはジンの骨太さを残しつつ、氷と混ぜ合わせて少しずつ温度を上げて、香りを立たせることができます。
冷凍だと早く冷えてくれますし、やっぱりネグローニは水っぽくするよりは香りを立たせてあげたいんですよ。
SIPSMITHは冷凍しても風味を保てるタイプのジンですし、そういった意味でもこのジンらしさが活かされたネグローニだと思っています。
SIPSMITHはどのように活かされているのでしょうか?
SIPSMITHにはジュニパーの骨格とスパイシーさ、複雑なハーブと適度な柑橘香があり、ジンとしての理想的なバランスを保っています。だからこそ安心してネグローニの骨格を任せられる。
かといってその使用量を増やしすぎるとドライになりますし、甘さと苦味が足りないというのは避けたい…それを追求した結果、今回考案したレシピにした時に、ネグローニの骨格固める上で非常に良い働きをしてくれたんですよ。
とはいえSIPSMITHは、ネグローニの対局にあるドライなカクテルでもしっかり味が決まります。そう考えると、数あるジンの中でもSIPSMITHほど真ん中を極めているジンはないんじゃないかと思います。
南木さんにとってネグローニとはどんなカクテルですか?
お酒をしっかり飲みたい時に味わいたいカクテル、ですかね。僕にとって今日は飲みたいなと思うときに、ネグローニ以上にピンとくるカクテルはありません。
強くて甘くて苦い…ハイボールを10杯飲むより、ネグローニを1杯だけ口にした方が飲んだ気分になる。そういう満足感を得られるんですよ、ネグローニは。
海外では食前酒ですが、僕にとってはこの上ない食後向けのカクテルでもありますし、葉巻の相棒としても重宝しています。
ネグローニの思い出や印象的なエピソードを教えてください
20代前半の頃、イタリア全土を旅していた時の思い出なんですが…
上から下までイタリアを縦断していく中で、当然ネグローニの故郷であるフィレンツェにも行くわけですよ。バーテンダーとしてフィレンツェでのネグローニは絶対に経験しておきたいと思っていましたし。なのでひたすら飲むことになるのですが…実は当時、ネグローニは少し苦手なカクテルだったんです。
それが、4日間かけて色々なバーを回る中で、とあるお店の方が、僕がバーテンダーだと知ると「だったらカウンターに入ってネグローニを作り合おう!みんなで乾杯しようよ!」と誘ってくれまして…急遽カウンターに入ってネグローニを作り合うことになりました。たくさん飲んで何度も乾杯したのですが、その時初めてネグローニの美味しさに気づけたんですよね。
それは味だけではなく、カクテルとしてのストーリーを肌で感じたことや、それを生んだイタリア人のパッションなど…フィレンツェにいた4日間のうちに、苦手から好きに変わってしまったんですよ。
ネグローニを通して、バーテンダーに国境はないんだと認識できましたし、本当に良い仕事だなと身をもって知ることができました。いわばネグローニは、自分にとって大切なことを再確認させてくれたカクテルでもあるんですよ。
南木さんが影響を受けた1杯はありますか?
間違いなく、フィレンツェのバーテンダーのみなさんが作ってくれたネグローニですね。
そのカクテルが好きな人に「これ美味しいから飲みなよ」って勧められると不思議と美味しく感じることが多いですよね。ネグローニの故郷に住む彼らはそれが美味しいことを知っているから、だからこそネグローニは世界中に伝播していったのだと思っています。
カクテルを考案するときのアイディアの源泉は何ですか?
身の周りのもの全てからアイディアが湧きます。何でもカクテルに結びつける癖がついているんでしょうね。
情景や物語だとか、口に入れるものももちろん、万物全てものがカクテルとして表現できると思っています。
その中でも特に芳香成分からはよく多くのアイディアが得られます。
例えばトマトを食したとしたら、素材そのものをアイディアにするのではなく、トマトが持つ青っぽい香りやフルーティーさ、少ししょっぱい感じなど…素材の要素を因数分解してカクテルに結びつけていくことが多いです。香りも味のひとつですし、何でも香りを嗅ぐ癖がついているんです。
最後に、もしもバーテンダーではなかったらどんなことをやりたいか教えてください
調香師ですね。
やっぱり好きなんですよ、香りや味の成分を考えて、何を合わせていけば良いのか考えていくのが。
ゼロからというより、今あるものを駆使して自分が思い描いた理想やアイデンティティを具現化していくのが好きなんだと思います。
【パークホテル東京 Bar The Society】
住所:東京都港区東新橋1-7-1 汐留メディアタワー 25F (地図をみる)
営業:17:00 〜23:00 ※時短要請中は営業時間に変更あり
電話:03-6252-1111 (ホテル代表)
https://parkhoteltokyo.com/ja/dining/the-society/
写真・文:小針真悟