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DISCOVER THE CLASSIC #4 – 川原洋輔とマティーニ


2021.07.11

世界中のバーテンダー達が最も追求するカクテルの一つ、マティーニ。
数あるクラシックカクテルの中でもとりわけ高い知名度を誇り、映画や文献にも数えきれないほど登場し、数多の偉人達を魅了してきた、まさに“カクテルの王様”です。
今回はそのマティーニについて、当企画にも通ずる「Beyond the classic」をテーマに掲げ、オールドボトルを駆使しながら究極のクラシックカクテルを提供するMIXOLOGY HERITAGE(東京・日比谷)川原洋輔(かわはらようすけ)さんにインタビュー。渾身の1杯を作っていただき、自身の哲学とマティーニを軸としたエピソードを語っていただきました。

– Recipe –
①SIPSMITH ロンドンドライジン 45ml
②SIPSMITH V.J.O.P 10ml
③ノイリー・プラット・ドライ(オールドボトルと現行ボトルのブレンド) 7ml
④オレンジビターズ(オールドボトルと現行ボトルのブレンド) 3drop

ワイングラスに全ての材料を加え、スワリングしながらなじませる。ジンで氷とともにリンスしたミキシンググラスに材料を加えステア。グラスに注ぎ、レモンピールを振りかけ、オリーブを沈める。

川原さんがお作りになられたのは、ずばりどのようなマティーニですか?

マティーニらしさをしっかり感じられつつも、老若男女様々な方に楽しんでほしいという想いから、やさしい口当たりに仕上げました。
とはいえアルコール度数が低ければ必ずしも飲みやすいわけではありませんし、間口を広げつつも王道のバランスを崩さず、しっかりマティーニとしての姿を追求しています。
僕が今勤務するお店では、オールドボトルの味わいを現行ボトルとのブレンドによってよみがえらせ、それらを駆使しながらクラシックカクテルを再構築しています。その技術を応用しながら、ベースのSIPSMITHもロンドンドライジンとV.J.O.Pの2種類をブレンドしています。
ブランド名の由来である「SIP(味わいを感じながら飲む)」に準え、じっくり五感で味わっていただけるようなマティーニに仕上げました。

SIPSMITHはどのように活かされているのでしょうか?

SIPSMITHは比較的新しいジンではありますが、伝統的なボタニカルを使用しており、古き良き時代のジンらしさも持ち合わせています。
オレンジやレモンの香り、オリスなどのフローラルな香り、女性的なニュアンスと男性的なスパイシーさ…そうしたボタニカル由来のフレーバーを最大限に活かしながら、口にした時のアフターもしっかり感じていただけるようにレシピを構築していきました。
やはりマティーニを構築する上でベースのジンはとても重要です。だからこそ2種類のSIPSMITHをブレンドし、より複層的な仕上がりにしています。ある意味では、カクテルを作ること自体がブレンドですし、ブレンドすることでしか引き出せない味わいもあるんです。
それと、SIPSMITHは2種類とも常温で使用しています。マティーニが誕生した時代に冷凍庫は普及していませんでしたし、当然ジンは冷凍されていなかった。そうした時代背景に準えて、例えば製氷機のゆるい氷(キューブアイス)で誕生当時のレシピでクラシックカクテルを作ってみると、意外と伸びがよく仕上がることもあるんです。

川原さんにとってマティーニとはどんなカクテルですか?

バーテンダーとして、強いて言うなら「奇跡が起こらないカクテル」でしょうか。
極めてシンプルなレシピだからこそ、ごまかしがききませんし、その時々の自分のバーテンダーとしての技量が嘘偽りなく反映される…偶然奇跡が起きて、自分の技量を超えたマティーニが仕上がることはありえないと思うんですよ。

マティーニの思い出や印象的なエピソードを教えてください

バーテンダーを始めたばかりで、マティーニは自分かお店の先輩が作ったものしか飲んだことがなかった頃の思い出なのですが…
神楽坂のとある著名なバーを訪問し、マティーニを注文したんですよ。初めて他のお店で味わうマティーニでしたし、業界の重鎮の方がいらっしゃるお店でしたから、とても緊張していました。
その方のマティーニを口にすると、あまりの美味しさに驚きまして、ほぼ一口で飲み干してしまったんですよ。本当に衝撃を受けたものですから「どうしよう、もう一度飲もうかな…他のカクテルの方が良いのかな…」と迷っていると、バーテンダーさんが優しく「ゆっくりやりましょうよ、長い付き合いになるんですから」と、1杯のお水を出してくださったんです。その時飲んだお水こそが、当時の僕にとってはこの上なく美味しいと感じられたんですよね。
おそらくその方は、若者の僕が緊張していたことを知っていただろうし、あらゆる面を考慮してバーに来て帰るまでのトータルの満足度を考えていただいたのだと思います。その時「バーテンダーってこういうことなのか」と気づいたんです。

マティーニやその他のクラシックカクテルを磨き上げるために、どんなことをしてきましたか?

駆け出しの頃はたくさんバーに通いましたが、今はより実践を意識した反復練習を積み重ねていくことが多いですね。ただし、営業後の練習はだいたい3杯までを意識しています。要点がわかっていないとずっと上達しませんし、先輩にアドバイスをいただいて自分の中で整理できてから練習を開始するんです。納得するものが出来たらそれをひたすら反復していく…実際の営業では何度も作り直すことなどできませんから。1杯あたりの密度を意識して練習を重ねています。

最後に、もしも川原さんがマティーニの考案者だったらどのようなカクテル名にしていましたか?

高校時代にバンドを組むことになり、当時からバーテンダーに憧れがあったんですよ。なのでバンド名をみんなで考えようとなった時、当時一番かっこいいと思っていた「ジントニック」というフレーズをバンド名に提案したら皆に笑われました…つまりネーミングセンスが長けている方ではないんですよね(笑)
とはいえ、今も普及しているクラシックカクテルは、シンプルなレシピでキャッチーなネーミングのものが多いですし、だからこそ100年経っても色褪せないのだと思っています。ですからシンプルなネーミングにはしていたでしょうね。

【MIXOLOGY HERITAGE】
住所:東京都千代田区内幸町1-7-1 日比谷OKUROJI (地図をみる
営業:15:00~23:00 ※時短要請中は営業時間に変更あり
電話:03-6205-7177
SNS:[Facebook]、[Instagram]

写真・文:小針真悟