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DISCOVER THE CLASSIC #5 – 大竹直哉とギムレット


2021.07.11

材料はジンとライムと砂糖だけ。その極めてシンプルなレシピによって生み出されるのは、ジンの歴史を彩るクラシックカクテル、ギムレット。
マティーニと人気を二分するショートカクテルでもあり、つまりそれはバーテンダーにとって、その道を極める上で避けて通れないカクテルであることを意味します。
今回はギムレットについて、フリーランスバーテンダーとして国内外でのゲストシフトやドリンクレシピ開発、バーコンサルティングなど多岐に渡って活躍する大竹直哉さんにインタビュー。渾身の1杯を作っていただき、自身の哲学とギムレットを軸としたエピソードを語っていただきました。

– Recipe –
①SIPSMITH ロンドンドライジン(冷凍) 30ml
②SIPSMITH V.J.O.P(常温) 15ml
③フレッシュライムジュース 15ml
④カナデュー カリブ 1tsp

全ての材料をシェイクしグラスに注ぐ。

大竹さんがお作りになられたのは、ずばりどのようなギムレットですか?

今回ギムレットのレシピを考えるにあたって意識したのは「男性的なギムレット」です。
個人的にはクラシックなギムレットは少しシャープな方が良いと思っています。なのでSIPSMITHのロンドンドライジンを冷凍したものと常温のV.J.O.Pの2種類を使って、仕上がりの温度帯を意識しながら綺麗になりすぎず、コシが強い味わいを表現しました。

どんなところにこだわったのでしょうか?

材料を注ぐ順番ですね。
料理の世界には「さしすせそ」という考え方があって、甘味や塩味、酸味などの材料を加える順番に工夫を凝らすことで、より良い仕上がりになるという基本的なロジックです。例えば、酒や味醂は味を浸透させやすくするから最初に、甘味は浸透しづらいから塩味や酸味より先に…等々。
そのロジックをカクテルに置き換え、今回は最初にSIPSMITHを、普通ならその後に酸味を加えるんですが、ロジックに準えて甘味を先に入れています。そして最後にライムジュース。こうすることでそれぞれが馴染みやすくなり、味がばらけません。結構違いが出るんですよ。
実はこのロジックは、これまでに何百回とギムレットを作ってきた中で、注ぐ順番に考えを巡らせたところ行き着きまして…調べた結果、すでに料理の世界で「さしすせそ」として根付いていたものだったんです。なので理論づけしたのは後からなんですよね。

SIPSMITHはどのように活かされているのでしょうか?

個人的にSIPSMITHにはどこか無骨なイメージを抱いているんですが、ロンドンドライジンの方は、ショートカクテルに使用すると、綺麗で柔らかい女性的な仕上がりになると思っています。とはいえ今回僕が作りたかったのは男性的なギムレット。だからこそより力強いV.J.O.Pも加えて男性的な要素を足しました。それに加え、コシが弱くならないようにロンドンドライジンは冷凍にしています。V.J.O.Pが常温なのは、仕上がりの温度帯を意識し香りを立たせるためです。

大竹さんにとってギムレットとはどんなカクテルですか?

一番飲んだカクテルであり、一番練習したカクテルですね。
2005年頃、酒類メーカー直営のバーで働いていたのですが、基本的にメーカーのお酒を使う必要があり、使える材料に制限があったんです。そうした環境で「どうやったら他店と差別化できるのだろうか」と試行錯誤をひたすら繰り返しました。その末にたどり着いたのが、今回のギムレットでも取り入れている温度帯や度数が違うものを2種使うという手法なんですよ。
今では他のショートカクテルにも取り入れていますし、そういった意味でもギムレットは思い入れのあるカクテルですね。

ギムレットの思い出や印象的なエピソードを教えてください

バーテンダーを始めた頃は、今ほど情報に溢れてはいませんでしたし、師匠がいなかった僕は自分でなんとかするしかなく…なので銀座を中心にバーに行って、自分で見て体験して、それで得たものを糧に技術を磨いていきました。
ただ、がむしゃらに飲みに行っては意味が薄れてしまいますから「色々なお店で同じカクテルを飲みなさい」とバーの先輩に教えていただいたことを参考に、まずは自分に合ったクラシックカクテルを探すことから始めました。
その中でTender(銀座)の上田和男さんに作っていただいたギムレットが美味しくて…飲みやすいのに水っぽくならないし、表面に氷のチップがたくさん浮いていて、とにかく驚きました。それを機に自分の中でギムレットがツボに入り、色々なバーでギムレットを飲んで学んでいくことになりました。だからこそ一番飲んだカクテルなんですよ。

そもそも大竹さんはなぜバーテンダーになったのでしょうか?

実は元々はファッションのデザイナー志望だったんですよ。中学から興味があって、美術学校のような工業デザイン科がある高校に進学し、その後は専門学校でデザインについて学びました。学生時代からアパレルのアルバイトをしてまして、やはり最初は販売スタッフをやるわけですよね。でも当時は若かったですし、いち早くデザインをやりたくて…結局は辞めてしまったんです。
当時から僕はお酒が好きでしたから、実はバーにもよく行ってまして、次のやりたいことが見つかるまでのつなぎとしてバーで働いてみようと、銀座のジャズバーで働き始めました。
このように最初はラフだったんですが、性に合っていたので働くのが楽しかったですし、どんどん追求していこうと思えるようなっていったんですよ。結局は自分で何かを考えて、作っていく仕事がしたかったんだと思います。

最後に、もしもバーテンダーではなかったらどんなことをやりたいか教えてください

元々目指していたこともあって、デザイナーですかね。デザインにもロジックは必要とされますし、ある意味ではカクテルを考案していくことと似ていると思っています。
ただ、他にもやりたいことはたくさんあって、陶芸やグラス作り、生花などもやってみたいです。
カクテル作りもそうですが、どちらかというと芸術的表現でありながら、ロジックが活きる、そういったモノ作りに興味があるんだと思います。

大竹直哉(フリーランスバーテンダー)
SNS:[Instagram]

写真・文:小針真悟